大洞川 和名倉沢

8月の終わりに単独で荒沢谷を遡行したときの記録に、和名倉沢に行ってみたいと書きましたが、月稜会のメンバーのとしやまさんも以前から和名倉沢に行きたいと思っていたらしく、集会で話をしたときに「そういうことなら一緒に行きましょう」ということになり、ちょうど10月のシフトで休みの都合が合って、早速和名倉沢に行けることになりました。
自分の行きたいところややりたいことを日頃からアピールしておくのって大事だなと、改めて思いました。
そんなわけで、今回は初めてとしやまさんとロープを結んで、和名倉沢を遡行します。
雲取林道入口の駐車スペースから少し歩いたところのガードレールの切れ目から河原に降りて、和名倉沢の出合の辺りで対岸に渡ります。
出合からすぐのところに登るのが難しい滝があるようなので、右岸側の一段上がったところを少し歩いて、最初の滝を通過した辺りから入渓。

入渓してすぐのところに立派な炭焼き窯の跡がありました。
この辺りでは古くは炭焼きが盛んだったようで、和名倉山にもあちこちに炭焼き窯の跡があるそうです。
この炭焼き窯は何年か前までは天井が残っていたみたいで、他の人の記録を見るとちゃんと天井がある状態の写真が出てきますが、ここ何年かで天井が崩壊したようで、中の造りがよく見えるようになってました。

その後の小滝をいくつか巻いて、この滝は遡行図では「左壁にフィックスロープあり」と書かれていますが、ロープが短くて、難しいところを登った後でやっとフィックスロープが掴めるようになります。

15mの弁天滝。
登るのは難しいので左岸から高巻き。
弁天滝を過ぎてから少し歩いた穏やかなところで休憩していたら、熊が居ましたが、どこかに走り去っていきました。

その後の2段の滝も高巻き。
沢登りの人も釣り師もよく入る沢みたいで、高巻きの踏み跡がまるで登山道のようにしっかりしています。

氷谷の出合を過ぎた後の2条6mの滝。
水流の左側を登れますが、最後が滑りそうでちょっと怖いです。

この滝は右側からフィックスロープを掴んで突破。
この辺りは登れる滝がしばらく続いて楽しかったです。

そして「通らず」のゴルジュの入口までやってきました。
「通らず」のゴルジュはこの15m滝から始まり、ゴルジュの中はナメの連瀑帯になっているそうです。

遡行図には右岸に明瞭な踏み跡ありと書かれていますが、正面から突破してもそれほど難しくはないらしいので、今回はゴルジュを突破することにしました。
途中でプロテクションは取れなそうですが、上でビレイする為に一応ロープを結んで登攀。

15m滝を登った後のナメを上から見たところ。
リードで登っているときにこの写真の手前辺りのナメで足を滑らせてしまい、そのままウォータースライダーのようにツルーっと3~4m滑り、一瞬「あっ、死…」と思いましたが、落ち口の手前の白くなってるところで止まって助かりました。

その先も綺麗なナメがしばらく続きます。

水流をものともせずにスタスタ登るとしやまさん。
結構なシャワークライミングで、僕はすぐに顎が震え出してしまって危ないところでした。

その後の40mの大滝は右のルンゼから高巻き。
このルンゼが登るにつれてどんどん傾斜が急になっていって、まぁまぁ悪かったです。

大滝の上の幕営適地には、ブルーシートが残置されていました。
ここで幕営することも考えてましたが、この時点でまだ12時前だったので、次の1370m地点の幕営適地まで進むことにしました。

次の2段15mの滝はまた高巻きして、その後の3m滝を見ながら登り方を考えます。
突破するのが難しい滝は、だいたい遡行図に通過する方法が書いてありますが、遡行図に書いてある通りに登るのは、なんだかゲームの攻略本を見ながらプレイしているような気持ちになってしまうので、遡行図に何も書いてない滝を見て、どこから登るかを考えたりパートナーと相談するのが楽しいです。

この3mの滝は、遡行図には「右にフィックスロープあり」と書いてあるのに、どこを探してもフィックスロープがありません。
釜が深くて泳がないと取り付けなそうだし、泳いだ先はツルツルのスラブだし、どうしようかと思い、周囲を見回しながら巻く方法を考えました。
僕は右のガレを登って巻こうかと思いましたが、としやまさんから左の斜面の高巻きを提案され、そっちの方が比較的安全そうなので、左の斜面から高巻くことに決定。
ここまでの滝の高巻きでは、大体しっかりした道のような踏み跡がありましたが、ここはほとんど踏み跡もなく、自らの勘を頼りに登ることになりました。
その先がどうなっているのか、ちゃんとまた沢床に戻れるのか分からなかったので、本当に真剣に周囲を観察しながら進み、無事に高巻きを終えて沢床に戻れたときはとても安堵しました。

その後もいくつもの小滝を突破しながら登っていきます。

ゴルジュ状の3段8mの滝と、その次の12mの滝は高巻き。

さらに4mぐらいの滝をいくつか越えて、もうすぐ1370mの幕営適地に到着するというところで、幕営に良さそうな場所を探しながら歩いていたら、目の前の水たまりで、突然何かが猛烈にビチビチし始めました。
ここまでの道すがら、釣り師でもあるとしやまさんから渓流の魚の話を色々と聞いていたので、これは岩魚だと直感し、沢の流れの中に逃げ込もうとするそのビチビチしたものを、必死に水たまりの中に押し戻し、両手で押さえ込んで掴みました。
掴んだ魚を掲げて、としやまさんの名前を叫びながら振り返ると、としやまさんはブッダのような微笑みを浮かべて静かに頷いていました。

その捕まえた岩魚がこちら。
いつか沢登りをしながら魚を釣ってみたいとは思ってましたが、まさか手掴みで初めての魚をゲットすることになるとは思っていませんでした。
大きさの比較の為にとしやまさんのハンマーと一緒に撮影してますが、このハンマーの長さが38cmだそうなので、この岩魚はだいたい30cmぐらいの感じです。
このぐらいの大きさの岩魚は「尺」と呼ばれるそうで、岩魚としてはなかなかの大物だそうです。

そして岩魚を捕まえた場所からほんの少し歩いたところで、絶好の幕営ポイントを発見。
もし幕営ポイントがもっと先だったら、しばらく岩魚を持って歩かないといけないところでしたが、ちょうど最後の滝を登ってから幕営ポイントまでの間で岩魚を捕まえられて、タイミング的にも最高でした。
テントを設営してのんびりして、後は焚き火を囲んで楽しい夕飯の時間になるはずでしたが、前日の夜に雨が降ったせいか、薪がどれも湿っていてうまく燃えず、焚き火をつけることができませんでした。
仕方ないので捕った岩魚は逃がしてあげて、ガスでお湯だけ沸かして、簡単に食事を済ませて就寝。

2日目は7時過ぎに幕営地を出発。

2日目もいくつもの滝を登ったり高巻きしながら遡行を続け、大きめの滝としてはこれが最後になる、10mの滝までやってきました。
本当にこの沢は綺麗な滝が多いです。

1680mの二俣。
どっちを進んでもヤブこぎなしで登山道に出られるそうですが、今回は登山道までの距離が短い右俣を詰めることにしました。

10時20分頃に無事に登山道に出ました。
ここから和名倉山の山頂までは少し離れているので、荷物をここにデポして山頂まで行くことにしました。

そして30分ほど歩いて和名倉山の山頂に到着。
噂以上に地味で、奥秩父らしさのある山頂です。
2年前に奥秩父主脈を雁坂峠から雲取山まで縦走したときから、主脈から外れたところに見えるずんぐりした大きな山体が気になっていて、いつか登りたいと思っていたので、ようやく登ることができて嬉しいです。
この和名倉山は、戦後の復興期の木材の供給源として大規模な伐採が行われた山で、山のあちこちでその痕跡を見つけることができます。
大伐採の他にも、山火事や鹿の食害など、いくつもの災難で森林が荒廃している山だそうですが、今回登った和名倉沢は本当に綺麗な沢で、見応えのある滝も多い上に登れる滝もたくさんあって、とても良い沢だと思いました。
反対側の滝川水系の谷はまた違う感じのようなので、今度来るときは滝川水系の谷を遡行してみたいと思います。
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