剱岳 チンネ左稜線

TK2と剱岳のチンネ左稜線を登ってきました。
今回のチンネへのアプローチは、当初の予定では長次郎雪渓の右俣を詰めていく方法を考えてましたが、どうも長次郎雪渓の上部の状態が悪いようなので、直前で予定を変更して、剱岳本峰を経由して北方稜線からアプローチすることにしました。
TK2は前日から入山して剣山荘に泊まっているので、1日目は僕は1人で室堂から歩いて、北方稜線上の適当なところでTK2と合流して幕営する予定です。
今回は幕営装備と登攀用のギアを全て担いで歩きますが、出発前にザックの重さを計ったらちょうど20kgでした。
1日目はこの20kgのザックを担いで室堂から剱岳まで歩かないといけないので、気分的にはチンネの登攀よりも1日目の歩きの方が不安が大きく、今回のスケジュール全体の核心のような感じがします。
毎日アルペン号の夜行バスで室堂に7時に到着して、準備をしてから出発。
室堂から雷鳥沢キャンプ場までの下りの道を歩いて行くと、最初の難所となる別山乗越への登りが見えてきました。
荷物が重いので、雷鳥坂の急登を避けて新室堂乗越を経由して、別山乗越にある剱御前小舎を目指します。

室堂を出発してから2時間ちょっとで剱御前小舎に着きましたが、炎天下の中での雷鳥沢キャンプ場からの標高差500mの登りはなかなかにキツく、この時点で既にヘトヘトに疲れていました。
しかしここまでの道のりはまだ序の口。
剱御前小舎から一旦300mぐらい下って剣山荘まで行き、そこから今度は剱岳山頂への500mの登りが始まります。
剱御前小舎からさらに1時間ほど歩いて11時頃に剣山荘に到着し、小屋でコーラを買って一休み。
500mの標高差もさることながら、別山尾根はなかなか激しい岩場が連続するので、重い荷物を背負って登るのはなかなか大変そうです。

別山尾根ではたくさんの登山者とすれ違いましたが、トレラン用みたいな薄くてぴったりしたザックを背負っている人が多く、身軽に岩場をひょいひょい通過していくのが羨ましかったです。
ちなみに僕は別山尾根はこれまで下りでしか使ったことがなかったので、登り専用の「カニのタテバイ」は今回が初めて。
ピカピカの鎖があって足場もちゃんと鉄の棒が打ち込んでありますが、鎖を使っても思っていたよりも難しくて、これが一般登山道ということにちょっと驚きました。
剱岳の山頂が近づいてきた頃には、僕の体力は既に枯渇して疲労困憊でしたが、迎えに来てくれたTK2と合流を果たし、剣山荘を出発してから4時間で剱岳の山頂に到着しました。
TK2が長次郎のコルの近くで幕営にちょうどよさそうな場所を見つけておいてくれたので、山頂から少し歩いてテントを設営し、ようやく1日目の行程が終了。
なんとか無事に歩き通すことが出来てホッとしました。

そして2日目の朝。
5時頃に幕営地点を出発して、まずはチンネに向けて北方稜線を歩きます。
目の前には北方稜線や八ツ峰の岩々した景色が広がり、雲海の上には朝日が出ていて、素晴らしい光景です。

長次郎雪渓の方を見ると、雪渓を歩いて登ってくる人が見えました。
ここから見ても雪渓の上部はいくつものクレバスがあり、かなり荒れているようです。
僕達は今回は雪渓通しに歩くのは断念しましたが、あの2人は大丈夫なんでしょうか。

北方稜線は、出発してすぐの長次郎の頭の登りだけちょっとした難所でしたが、その後はほとんど水平に歩く感じなので、体力的には楽で快適な岩歩きという感じ。
しかしやっぱり登山道ではないので、先をよく見てルートファインディングしながら歩く必要があり、そういう感じがまた楽しいところでした。

逆光なので見づらいですが、池ノ谷の頭から見たチンネ方面。
左の一段低いピークがチンネ、その右にあるのが三ノ窓ノ頭と八ツ峰ノ頭です。
池ノ谷の頭から池ノ谷乗越への下りは懸垂で降りて、池ノ谷乗越で休憩していたら、ちょうどガイドさんのパーティが長次郎雪渓から登ってきました。
ガイドさんの話では、やっぱり長次郎雪渓の上部はいつもよりかなり悪い状態だそうです。

三ノ窓に向けて池ノ谷ガリーを下っていきます。
この日はチンネの左稜線に向かうのは僕らの他に2組居ましたが、やっぱりガイドさんのパーティは道が分かっていて歩くのが早く、もう見えないぐらい先に降りていってしまいました。
もう1人単独で来ている人が居て、僕らより先に池ノ谷ガリーに入ってましたが、下る途中で追い抜くことができて、僕らは三ノ窓に2番で到着。

三ノ窓まで来ると、もうチンネの左稜線の取り付きが見えます。
左稜線の取り付きはあまり広くないから2パーティは居られないとガイドさんが言うので、1組ずつ時間をずらして三ノ窓を出発することにしました。

ガイドさんのパーティが出発してから少し待って、僕達も三ノ窓雪渓をトラバース。
シュルンドが大きく開いていてちょっと怖いです。

反対側から見るとこんな感じ。
うっかり先端のところに乗ったら落ちてしまいそうです。

取り付きのテラスで準備を整え、8時前ぐらいに登攀を開始。
今回は僕が奇数ピッチをリードすることになったので、まずは僕がリードで1ピッチ目を登り始めます。

3ピッチ目でピナクルを回り込んで、ピナクルと壁の間のテラスまで来ました。
上の方を見ると、ちょうど先行のガイドさんのパーティが核心の「鼻」と呼ばれている辺りを登っているところが見えます。

5ピッチ目はⅠ級のほぼ歩きのピッチで、次の6ピッチ目はハイマツ混じりのフェース。
6、7ピッチ目あたりは真っすぐどんどんフェイスを登っていく感じで気持ちのいいところです。
8ピッチ目の2つのピナクルを越えていくところで、僕が見ていたトポとTK2が見ていたトポでラインが違くてちょっと迷いましたが、真っ向勝負でピナクルを真っすぐ登っていくのが良い感じでした。

そして9ピッチ目。
とうとう核心の「鼻」までやって来ました。
なかなか難しそうな見た目で、この環境でこんなところを登るのかと少し緊張しましたが、元々はエイドのルートということもあって残置支点は多すぎるぐらいで、登り始めてみるとすぐに怖さはなくなりました。
体感では5.8ぐらいのグレードに感じましたが、高度感があって楽しかったです。

「鼻」をフォローで登るTK2。
TK2は暑さにやられたみたいで調子悪そうでしたが、なんとか無事にノーテンで突破。

「鼻」を越えた後は快適なリッジを4ピッチぐらい登ってチンネの頭へ。
つなげたら3ピッチで登れるみたいですが、ロープがものすごく重くなるので短く切った方が良いと思います。
想定していたよりも大分時間がかかってしまい、登攀開始から約6時間でトップアウト。
時刻はもう14時近くになっていて、天候が心配だったので急いで下降に取り掛かります。

頂上からハイマツ帯の横にある踏み跡を歩いて降りて、降りたところにある下降支点で懸垂。
この岩の間みたいなところを出たところで写真の左方向に歩いていくとまた次の支点があり、2回の懸垂下降で池ノ谷ガリーの上の方に出ることができます。

池ノ谷乗越からまた北方稜線を歩いて戻り、16時過ぎにテントに帰着。
もうちょっと早く帰ってこれたら、この日のうちに剱沢キャンプ場辺りまで降りようと思ってましたが、もう時間も遅いし大分クタクタになってしまったので、同じ場所でもう1泊することにしました。
テントの近くで水はすぐとれたので、しっかり栄養と水分を補給して、翌日に備えて就寝。
無事にチンネ左稜線を登れて、目的は既に達成しましたが、ここから室堂までの歩きもかなり長いので、また全装備を担いで長時間歩くことになります。
しかも帰りは帰りで登り返しが結構あるので、3日目もまだまだ頑張らないといけません。

3日目の朝も快晴。
テントを撤収して5時過ぎに出発し、室堂を目指して歩き始めます。

山頂直下の鎖場。
前に来たときは鎖に触れないように降りたりもしましたが、さすがに今回は荷物が重いので、しっかり鎖を掴んで降りました。

この日もかなり暑く、下っていてもすごく汗をかいてしまって大変でしたが、剣山荘に着いたら冷たいコーラを飲むことを楽しみに頑張り、下り始めから2時間半ぐらいで無事に剣山荘に到着。
コーラを飲んで休憩すると生き返るようでしたが、ここからまた剱御前小舎まで登って、そこからまた雷鳥沢キャンプ場に降りてからの、最後の室堂への登り返しが待っています。

剣山荘から剱御前小舎までの緩い登りも、荷物が重くてかなり時間がかかり、剱御前小舎に着いたときにはまたすっかりヘロヘロになっていました。
また冷たいドリンクを飲んで回復しようと思い、剱御前小舎でマッチを買ったら、まさかの常温でガッカリ。
もう二度とこの小屋で買い物はしないと思いました。
剱御前小舎から下り始めると、そこから先の道のりが一望できて、室堂まで見えるようになってきますが、ここからがまたとても長く感じ、途中の雷鳥沢キャンプ場でも休憩をとって、14時過ぎにようやく室堂に到着しました。
チンネの登攀はとても楽しかったですが、やっぱりこの行きと帰りの歩きが本当に大変でした。
しかしこれまでに源次郎尾根や八ツ峰を登ったときは、小屋を使って楽をして登った感じがあったので、今回は全ての装備を自分たちで担いで、ようやく完全に自分たちの力で剱岳のルートを登ったと思える気がします。
アルパインのルートに行くといつも思うことですが、こんな過酷な山はしばらくはもういいかなと、今は思います。
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