瑞牆山 十一面岩奥壁 一粒の麦


2023年7月7日(金)
MATSUと瑞牆山の十一面岩奥壁の「一粒の麦」を登りに行ってきました。

「一粒の麦」は、月稜会の大先輩のchimney師匠が開拓したルートで、月稜会のクライマーとってはとても特別なルートです。

chimney師匠が開拓した瑞牆のマルチは他にもいくつかありますが、他の「錦秋カナトコルート」とか「アウトサイダー・ズルムケチムニー」と比べると、「一粒の麦」は明らかにネーミングに気合いが入っており、chimney師匠としてもこのルートに何か特別な思い入れがあるように感じられます。

そんなルートだから、やっぱりできればオンサイトで登りたいという思いがあり、2ピッチ目の5.10bのクラックがこのルートのハイライトということなので、5.10bのクラックがオンサイトできる自信がついたら登りに行こうと思っていました。
しかしやればやるほどクラックのオンサイトトライは難しく、僕のクラックのオンサイトの最高グレードは未だに5.9+止まり。

いつかは「一粒の麦」にトライしたいとずっと思いを馳せつつも、なかなか実行に移すことができないままでいましたが、今回MATSUに誘われて、この機会を逃す手はないと思い、意を決してトライすることにしました。

ついに憧れのルートにトライできるというワクワクと、果たして自分に登れるのかという一抹の不安で、前日からずっと心がそわそわしていました。



末端壁を過ぎてからのアプローチがよく分かりませんでしたが、左岩壁とモアイフェースを左に見ながら踏み跡を辿っていき、奥の方の岩に向かって登って行ったら「一粒の麦」の取り付きに到着。

「一粒の麦」は、グレード的には核心となるピッチは5.10cの最終ピッチですが、ルート全体のハイライトとなる綺麗なクラックは2ピッチ目の5.10bの部分。
MATSUは何年か前に「一粒の麦」を一度登っているので、今回は僕が2ピッチ目をリードでトライさせてもらうことにしました。
そのまま偶数ピッチを僕が登ると、面白いところを全部僕がリードすることになってしまうので、さすがにそれは申し訳ないと思い、最終ピッチはMATSUにリードしてもらうことに。



というわけで1ピッチ目はMATSUのリードで登攀スタート。
どうやら先行パーティが居たみたいで、ちょうど先行パーティが2ピッチ目を登っているところが見えました。

1ピッチ目は短いけど傾斜が強いハンドサイズのクラックがあり、意外と難しかったです。

2ピッチ目の取り付きのところで、先行パーティが登り終えるのを待ちながら、クライマーの姿を見ないようにクラックを見てオブザベ。
綺麗なクラックと聞いてはいましたが、想像以上に綺麗なクラックで、実際にクラックを目の当たりにすると、登れるかどうかという不安はすっかりどこかへ飛んでいってしまいました。

この春に何度か、仲間と小川山に行く計画を立てましたが、ことごとく天気が悪くて中止になり、今年に入ってから今日まで、一度も花崗岩に触れることができませんでした。
限界まで高まった僕のクラック欲は、この美しいクラックを前にして抑制が効かなくなり、先行パーティが登り終えるのを待つ時間がひどく長く感じられ、早くこのクラックに手を捻じ込んでみたいという思いでウズウズしていました。



そうして、やっと僕が登れる状態になり、満を持してオンサイトトライを開始。
思っていた通りすごく気持ち良く登れるクラックで、登るのが楽しすぎて気が付いたら結構ランナウトしてたりもしました。

手持ちのカムが残り2つぐらいになってきたところで、レストしながら上を見るとまだまだクラックが続いていて、ちょっとやばいなという感じになりましたが、カムの位置を調整したりして下のカムを1つ回収し、落ち着きを取り戻しました。
最後の核心のところでは、腕が張ってきてなかなかムーブが起こせませんでしたが、色々と体勢を変えつつレストして、気合いと共にムーブを起こし、核心を突破。
久々に雄叫びをあげて、2ピッチ目の終了点に到着しました。

渾身の力を振り絞り、恐怖にも打ち勝ってのオンサイトができて、とても充実した気分でした。



その後の3、4ピッチ目はほぼ歩きという感じで、次は5ピッチ目の5.10aで、ここはMATSUがリード。

ここは出だしは簡単なクラックを登って、左上していってダブルクラックの右を登って最後はワイドとトポには書いてありますが、MATSUは前に来たときにトポのラインを登っているので、ダブルクラックのさらに右にあるかぶったワイドを登りたいと言い出しました。



ここがそのワイド。
MATSUは苦労しながらもここをちゃんとオンサイトで登っていきましたが、この部分が激ムズで、僕は3回ほど落ちました。

後でMATSUに話を聞いたら、左のクラックは登ったことがあるので、「登れると分かっているところを登っても意味がない」と言ってました。
「神々の山嶺」好きの僕としては、そうこなくっちゃという感じです。



次の最終ピッチのところでまた待ち時間があったので、しばらく周りの景色を眺めていたら、十一面岩の左岩壁でマルチを登っているパーティが見えました。
すごいブリッジングで登っていて、何のルートか気になったので、帰宅してから調べてみたら「山族'79黄昏ルート」の最終ピッチでした。
左岩壁にもchimney師匠が開拓した「錦秋カナトコルート」があるので、そっちも今度登りたいです。



そして5.10cの最終ピッチはMATSUがリードでトライ。

このピッチは少し登ったところから長いコーナークラックが始まりますが、核心となるのはその前の傾斜が立っている部分で、カムセットがちょっと難しそうな感じです。

僕はフォローだったし、MATSUの登り方をがっつり見ていたので、出だしの部分は難なく突破。
一段上の棚みたいなところに上がったところで顔を上げると、綺麗なコーナークラックが長く続いていました。

よくフリクションの効く花崗岩のクラックをグイグイ登っていく感じで、フォローだったので何も考えずにただただ目の前をクラックを登ることに夢中になっているうちに、しばらくすると頂上にいるMATSUの姿が見えてきました。



コーナークラックを登り終えたところ。

コーナークラックの部分はちょうど下からも上からも見えないので、写真には撮れませんでしたが、2ピッチ目のクラックに負けずとも劣らない素晴らしいクラックでした。
ちょうどそのクラックを登り終えたところが頂上というのがまた最高です。



無事にトップアウトして奥壁の頂上に到着。

周りを見渡すと、十一面岩の正面壁もすぐ近くにあるし、小ヤスリ岩も近くに見えて、もっともっと瑞牆のマルチを登りたいという気持ちになります。

先月はすごく重い風邪を引いたり、室内で歩いているときに段差で足の薬指を強打して怪我をしてしまったりして、しばらく外岩を登れなくて気が滅入ってましたが、以前から目標にしていた瑞牆のマルチを登れて、今はとても幸せな気持ちです。

クライミングと言っても色々あるけど、やっぱり僕がやりたいクライミングはこういうのだなぁと思いました。

次の目標は「ベルジュエール」にしたいと思いますが、「ベルジュエール」は1ピッチ目が5.11bのフェイスなので、トライできる自信が持てる日が来るのはいつになるやら、という感じです。
その日を一日でも早く迎えられるよう、より一層の精進を重ねてまいる所存です。




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